新人の担当者が、上司から「オンライン販売」を実施するためのECサイトのプラットフォーム調査を指示された場合、どのような点に気を付けてASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)を選ぶべきでしょうか?
ASPは豊富にあり、各社とも費用や機能もさまざまですので、まずは自社のECサイトの規模感や必要な機能を整理した上で、比較検討することが重要です。
本日は、forUSERS株式会社でマーケティングを担当している筆者が、ASPの選び方の7つのコツを解説します。
ASPを検討する前に、最初は必要な機能を自分で整理しよう
ASPを選ぶ際に重視するのが、費用感や提供会社の信頼性、そして高機能であることなどがあげられますが、まずは自社に必要な機能の要件定義を行う必要があります。小規模事業者で、担当者が一人というようなケースにおいても、必要な機能を箇条書きで用意しておきましょう。例えば以下のように「ECサイトでやりたいことリスト」のように作るだけでも十分です。
◆ECサイト運営でやりたいことの例
・ブログを書いてSEO対策を実施したい
・スマートフォンで管理画面を操作したい
・商品ページに動画を掲載したい
・トップページは独自にデザインしたい
・後払い決済を導入したい
・メルマガやステップメール機能が欲しい
ECサイトに全く詳しくない新人担当者でも、上記のようなことは思い付くはずです。そして、できれば、以下のように重要度をつけていきましょう。
・ブログを書いてSEO対策を実施したい 必須ではない
・スマートフォンで管理画面を操作したい 必須ではない
・商品ページに動画を掲載したい 必須ではない
・トップページは独自にデザインしたい 必須ではない
・後払い決済を導入したい 必須
・メルマガやステップメール機能が欲しい 必須
このやりたいことリストができれば、あとはASP各社から資料を取り寄せたり問い合わせたりしてみることで、以下のような表ができるはずです。
◆ASPベンダーの機能比較表(イメージ)
A社 | B社 | C社 | |
---|---|---|---|
アクセス分析を定期的に行いたい | 〇 | 〇 | 〇 |
ブログを書いてSEO対策を実施したい | 〇 | △ | × |
スマートフォンで管理画面を操作したい | × | △ | × |
商品ページに動画を掲載したい | × | × | × |
トップページは独自にデザインしたい | 〇 | △ | 〇 |
後払い決済を導入したい | 〇 | 〇 | 〇 |
メルマガやステップメール機能が欲しい | × | △ | △ |
このような基準を全く設けないでASP各社の話を聞いても、各社とも「高機能」を売りにしており、未経験者には違いがよく分からないということになりかねませんので、事前にこのような「やりたいことリスト」を作っておきましょう。
そうすると、各社の機能の違いが分かりやすくなります。具体的には、ブログプラットフォームで有名なWordPress(ワードプレス)は、有名なASPカートでも利用できないケースが稀にありますし、Amazon Payや楽天ペイなどの決済方法に対応していないケースがあるので、事前に把握しておきましょう。
なぜなら、ASPの導入費用は初期費用が数万円~、月額費用は数千円~と比較的安価ですが、それでも導入後に別のASPに乗り換えるとなると大きな労力が必要となるため、事前に必要な機能を把握しておく必要があるのです。
それでは、ここからASPを導入するときの7つのコツを解説します。
新人担当者がASPを導入するときに知っておきたい7つのコツ
ここで紹介する7つのコツは、最初は重要でなくとも中長期的には重要なことなので、新人担当者は全てに目を通してみてください。
コツ① 将来、ドメイン(URL)の引っ越しが可能か確認する
ASPでECサイトを始めた後、年間の売上が1億円を超えてくるようになると、注文数が増えてバックエンド作業でヒューマンエラーが多発するようになります。また、もっと売上を伸ばすために、ツールを導入したいと思った場合、システム連携が必要となります。
その際は、ASPよりも高価な「パッケージ」や「カスタマイズ可能なクラウド」のECシステムへのリニューアルを実施する必要があります。しかし、使っていたASPのドメインやURLが引っ越し不可能なケースがあります。
そうなると、ユーザーがブックマークしていたURLが使えなくなったり、あるいはSEO(例えば「ギフト 父の日」と検索すると検索結果の上位に表示される)で上位にある商品ページがなくなってしまいます。
通常のWebサイトであれば「301リダイレクト」というサーバーの設定をすることで、古いURLをクリックすると、新しいURLに自動的にページ遷移するので、影響はほとんどありません。しかし、ASP会社によっては、「1URLあたり月間○○円で、リダイレクトを実施します」などと有料にしている場合もあります。
つまり、ECサイト運営が成功した場合に、新システムへURLが移行できないと困ることになるのです。このことは、契約前に想定しておかなくてはいけません。そのため、契約するASPには、将来ドメインを引っ越すことができるのか、あるいは自社ドメインを適用できるのか、といったことを確認しておきましょう。
コツ② 売れているショップを教えてもらう
ECサイトをASPで作ることは、ある程度のITリテラシーがあれば決して難しいことではないのです。ECサイトの運営で難しいことは「集客」です。ブランド力がある企業でなければ、最初からECサイトにユーザーは来ません。
そのため、契約を考えているASPがあったら、「貴社プラットフォームで、売れているショップを教えてください」と聞いてみましょう。できれば、自社と同じ業界の方が参考になりますが、なるべく多くのショップの成功例を聞くことをおすすめします。
そして、「どうして○○ショップが売れているのか?」をASPの営業担当に聞いて、自社でも再現可能かを検討します。真似と思われるかもしれませんが、経験もノウハウもない中では、実際に同じASPで実績を上げているショップを参考にするべきです。
そして、教えてもらったショップで実際に商品を購入してみてください。その際、以下のような点に注目してみましょう。
◆ネットショップで参考にする点
・自動返信メールの内容
・包装
・同梱物
・ステップメール
・SNSへの誘導
など、ヒントにすべきことは無数にあるはずです。使ってみて初めて分かることもあるので、売れているショップの情報を入手したら、ぜひ買い物を試してみましょう。
コツ③ 他社のASPの方が優れている点を聞いてみる
有名ASP数社の資料を見比べても、初心者ではどのシステムが優れているのか判断できないのではないでしょうか。なぜなら、どのASPも似たような訴求をしているからです。
◆有名ASP各社の訴求
・多機能
・サポート充実
・初心者も安心
・SEO対策可能
ASPの機能比較というのは、業界経験者でなければ「この事業者にはこういった機能があるASPが良い」という判断基準はなかなか分からないものなのです。ですから、電話などで直接問い合わせをして「御社ASPの良さは分かりましたが、例えばA社が御社より優れている点はどこだと思いますか?」などと、各社に聞くことで、デメリットを推測することができます。
「A社はWordPressと連携しておりますので、コンテンツマーケティングが実施しやすいかもしれません」
「A社ではトップページのテンプレートが用意されています」
このようにデメリットを事前に把握し、デメリットを許容できるASPを選ぶべきでしょう。
コツ④ プラットフォーム会社に多く寄せられる要望を聞く
現在のASP利用者からどんな要望が多いのかを事前に聞いておきましょう。要望が多いということは、裏を返すと、そのプラットフォームの弱点ともなるからです。
どんなECプラットフォームであっても、全てのデメリットを事前に把握しておくことは困難です。しかし、それを事前に一つでも把握しておくことで、EC運営のリスクを予期することができるのです。
導入後に予期していなかった追加費用がかかってしまった、などの事態を防ぐためにも、リスクを事前に把握するように努めましょう。
コツ⑤ アパレルショップの実績が多いASPがおすすめ
EC業界の業界人の間で定説になっていることがあります。それはアパレルECの実績が多いプラットフォームが良いということです。なぜなら、アパレル業界こそ、EC業界においてレッドオーシャンであり、かつECのさまざまな機能やツールが求められる業界だからです。
そして、そのアパレル業界で多数の実績があるということは、そのプラットフォームが使いやすいということにつながるのです。
コツ⑥ 勉強会などを実施しているか
勉強会はできるだけ、オンラインよりもリアルの勉強会やセミナーに出るべきでしょう。そして出席したら、できるだけ多くの質問をして積極的に講師に疑問をぶつけてみましょう。
筆者もWebマーケティングの講演会などを実施することがありますが、質問を受けることはどちらかと言えば少ないです。しかし、過去に1日10万円の有料セミナーを実施したときは、質疑応答だけで2時間ありました。無料の勉強会でも質疑応答の時間は設けられているはずですので、ぜひ熱意を持って参加し、疑問を講師にぶつけてみましょう。
有名ASPであれば、勉強会を実施しているので、これを利用しない手はありません。またリアルの勉強会であれば、参加している他社のEC担当者と交流でき、情報交換をすることもできるはずです。
コツ⑦ 将来のカスタマイズが可能なのか?
ASPは一部を除き、基本的にカスタマイズができません。そのため売上が1億円を超えて、注文数が1日100件を超えるようになる場合は、ECサイトのバックエンドとシステム連携して効率化しないと、売上が頭打ちになってしまいます。
しかし、ASPとはいえ、ECシステムの乗り換えは非常に労力がかかります。最近では、ASPでもカスタマイズ可能なものが出てきております。インターファクトリーのebisumart zero(エビスマート ゼロ)も、数年後にステップアップするのに向いているECプラットフォームです。
ebisumart zeroは、大手企業が新規にECを立ち上げる際、最初は費用の安いASPとして運用し、ECサイトが成長した数年後にステップアップする場合などに、非常に向いているASPです。
まとめ
新人担当者は、ECサイト運営のノウハウが分からないと思いますが、一番重要なのはノウハウよりも情熱です。絶対に売上を伸ばすということにコミットしましょう。コミットすれば行動が変わります。
そして、ECの担当者になったのなら、それは非常に幸運なことです。なぜなら、ECサイト担当者というのはあらゆる企業で求められるスキルであり、オンラインビジネスの基本でもあります。
ぜひ、あなたのECサイトの売上を伸ばすために頑張ってみてください。