フルスクラッチでECサイトを構築するということは、既存のECシステムのオープンソースプログラムや、パッケージを使わずにゼロから開発するということです。
すでにECサイトのノウハウが十分にある大手企業においては、フルスクラッチで構築する方法が良いのですが、これから新規にECサイトを作る場合の多くは、フルスクラッチでの構築は避けた方が良いでしょう。
なぜなら、依頼する事業者側、あるいは開発側にECサイトのノウハウがないと、例えばECサイトに必要な会員登録機能のないECサイトが完成してしまうなどの場合があるので、最初のECサイトのカートシステムは、ASPやパッケージを利用すべきです。
本日は、forUSERS株式会社でマーケティングを担当している筆者が、「そのECサイトは本当にフルスクラッチで作るべきか?」を解説します。新規事業担当者であれば最後までご覧いただき、ECシステムの選択に生かしてみてください。
フルスクラッチの長所と短所
まず、フルスクラッチでECサイトを構築した場合の、長所と短所を把握しましょう。下表をご覧ください。
◆フルスクラッチとパッケージ、ASPの比較
フルスクラッチ | パッケージ | ASP | |
---|---|---|---|
カスタマイズ | ◎ | 〇 | × |
システム連携 | ◎ | 〇 | × |
システムの最新性 | × | × | ◎ |
費用感 | × | △ | ◎ |
開発期間 | × | △ | ◎ |
まず、フルスクラッチであれば、理論上はどのようなシステムでも実現可能であり、また、社内のあらゆるシステムとの連携が可能となります。フルスクラッチは柔軟性と拡張性が最も優れたシステムであることは疑いようもありません。
しかし、フルスクラッチでECサイトを構築するには、早くても1年という長い期間が必要となります。また、ゼロからの開発となるため膨大な予算もかかります。フルスクラッチでECサイトを構築するならば、以下のような事業者が行うべきだと考えます。
フルスクラッチが向いているのは「ECサイトの構築・運営経験」がすでにある企業
フルスクラッチでのECサイト構築が向いているのは、以下のような企業です。
◆フルスクラッチが向いている企業
・ECサイトのノウハウがある
・ECサイト構築経験がある開発者が社内にいる
このようにECサイトの運営経験がある場合は、フルスクラッチのメリットが出てくるのですが、経験が少ないうちに、いきなりフルスクラッチでECサイトを構築するのは失敗する可能性が高くなります。
なぜなら、ECの要件定義を行う際に、自社独自の業務フローを作成することができても、EC運営に欠かせない点に漏れが発生しやすくなるからです。
冒頭でも触れましたが、筆者の知り合いのEC事業者は、フルスクラッチでECサイトを構築した結果、「会員登録機能」が実装されていなかったので、その後にCRMやマーケティング活動が十分にできずに、リニューアルを行うことになりました。
このような理由から、最初はASPやパッケージを利用してECサイトを作るべきなのです。筆者が聞いた事例ですが、日本で誰もが知る大手企業においても、EC事業の立ち上げの際には、月額数万円程度のASPカートシステムを採用した企業があります。
その後、その大手企業は、ASPで作成したサイトをテスト的に1年ほど運用し続けたのちに、フルスクラッチでのECサイト開発に着手しました。この事例のように、まずはECサイトの運営を経験してから、本格的にサイト構築を始めるべきなのです。
しかし、フルスクラッチにはパッケージやASPにはない独自の強みがありますので、次にフルスクラッチでECサイトの構築を考えている方向けにメリットを解説いたします。
フルスクラッチでECサイトを作る3つのメリット
今や、中大規模ECサイトの主流はパッケージやクラウドECとなりましたが、フルスクラッチにしかない強みもあります。
メリット① パッケージでは改修しにくい箇所も改修できる
EC業界において、パッケージソフトウェアは多くのベンダーから提供されており、年々機能を拡張しております。また、10年前に比べると、格段にカスタマイズの柔軟性も高まっています。そのため、大手EC事業者にもパッケージは数多く導入されるようになりました。
しかし、機能性、柔軟性が高いパッケージであっても、決済・カート周りのカスタマイズは大変な場合が多いです。特に決済は決済会社のシステムとの連携があるため、パッケージベンダーによっては、「対応決済は○○のみ」というケースは多々あります。
しかし、フルスクラッチであれば、そのような制限がなく自社の意向でカスタマイズをすることができます。この点はフルスクラッチにおいての大きなメリットと言えるでしょう。
メリット② マーケティングにおいてPDCAサイクルを最も早く回すことができる
EC事業においてマーケティング担当、開発担当(自社開発)も十分に体制が整っている企業においては、ECの売上向上のためのPDCAを最も早く実施して検証することができます。
特に決済やカート周りなどはパッケージの場合、開発工数がかかる箇所ですが、同時に売上に強く関係する箇所でもあります。そのため、パッケージを利用している場合は、決済やカート周りの改修はなるべく避けたり、後回しになってしまいがちです。
しかし、フルスクラッチで社内で改修する場合は、パッケージの保守をしている外部ベンダーよりも早く改修でき、しかも、マーケティング担当と開発の意思疎通が早いのも、PDCAサイクルが回しやすい体制と言えるのです。
実際に、ZOZOTOWNやユニクロなどは、フルスクラッチを採用しており、ECのマーケティングも最先端を行っております。
しかし、フルスクラッチでPDCAを早く回すためには、マーケティングとECの開発部門が協力しやすい環境などがないとスピード感は生まれません。このような体制を組んで、PDCAサイクルを回すことができるなら、フルスクラッチは最も良い開発方法と言えます。
メリット③ 「予約システム」などEC以外の機能を組み込むことができる
ECサイトは、あらゆる分野で利用されております。特に以下のような物販分野においてECサイトはよく利用されています。
◆ECサイトがよく利用される分野
・家具、雑貨
・家電
・化粧品
しかし、これらの分野だけではなく、以下のような通常のECシステムの機能では対応不可能な特殊な分野にも利用されます。
◆通常のECシステムでは対応不可能な特殊な分野
・携帯電話のSIM販売サイト
・シェアリングサービス
・PCのカスタマイズ販売
ECサイトは、基本的に物販のためのシステムであり、そこに当てはまらないシステムは苦手です。例えば、シェアリングサービスのような予約管理が必要になるシステムをECサイトに組み込んだり、あるいは、BtoBにおいて分割して納品される「分納」への対応などは、通常のECシステムでは困難です。
もちろん、パッケージでも工数をかけて開発することで対応可能ですが、パッケージの場合、カスタマイズの箇所が多いと次のバージョンに対応できなかったり、あるいは工数がかかりすぎてベンダーが断ったりするケースもあります。
このような特殊なケースにこそ、フルスクラッチのECサイトが向いているのです。
信頼しているシステム会社があるからといって、ECサイトの発注をカンタンに決めてはいけない!
多くの企業では、システム開発を常に依頼しているような、信頼しているシステム会社の存在があると思います。自社システムを熟知しており、また稟議も通りやすいため担当者としてはありがたい存在です。
しかし、ECサイトの発注だけは、他の会社も含めて検討すべきです。なぜならECサイトは、社内システム(基幹システム等)と違って、利用するのは顧客です。そのため、ECサイトには以下の観点が必要となります。
◆ECシステムに必要な観点
・スマートフォン対応
・最新のマーケティングトレンド
・アプリやツールとの連携
・セキュリティ対策
これらの点から言えるのは、ECシステムは「変更が多いシステム」ということです。そのため基幹システムなどのように、一度決めた要件から変更の少ないシステムを作ってしまうと、実施したいマーケティング施策を断念したり、売上が向上しなかったりするサイトとなってしまうのです。
また、筆者の経験ですと、依頼するベンダーによっては、フルスクラッチ開発ではなくオープンソースを利用して、開発するケースも多いです。現在ソースコードが公開されているオープンソースは、システムの脆弱性が懸念されており、EC担当者であればその点も留意しておくべきです。
参考:経済産業省「株式会社イーシーキューブが提供するサイト構築パッケージ『EC-CUBE』の脆弱性等について(注意喚起)」
ECシステムの導入については、付き合いのあるシステムベンダーも含めて、3~5社でコンペを行うべきです。
ECサイトでの売上が50億円を超えるとフルスクラッチが最も有力な選択肢となる
筆者は年商が50億円以内であるならば、パッケージやクラウドのECシステムを利用すべきだと考えます。特にフルカスタマイズできるクラウドは、ECシステムのトレンドです。インターファクトリーのebisumart(エビスマート)もフルカスタマイズできるクラウドのECシステムです。
しかし、大企業であっても新規にECサイトをリリースする場合は、将来のカスタマイズも可能なECシステムを使うべきでしょう。インターファクトリーのebisumart zero(エビスマートゼロ)は、数万円の月額費用で開始でき、売上が伸びて中大規模のECシステムが必要になった際に、カンタンに中大規模向けのクラウドシステムである「ebisumart」に移行できます。
新規事業におススメなシステムとなっているので、是非他社とともにご検討ください。