近年、国内のEC市場規模は各業界において右肩上がりの成長を見せておりますが、その中でもアパレルは業界全体で特にECの利用が活発で、EC化率は2019年で13.87%でしたが2021年には21.15%と急激に伸びている分野です。
アパレルEC業界は早くからEC化が進んでおり、コロナ禍により実店舗が大打撃を受けたことで、業界全体としての売上は落ち込みましたが、その一方でEC市場は急速に成長しました。
もし、アパレルECで売上を高めるポイントを調査している場合は、この記事で紹介する売上高ベスト5の企業に、そのヒントがあるはずです。
本日は、forUSERS株式会社でマーケティングを担当している筆者が、アパレルECについて解説します。
アパレルEC売上高ランキング(2020年9月~2021年8月)
まず、以下のランキング表※をご覧ください。こちらは日本ネット経済新聞が調査した2021年版のアパレルECの売上高ランキングになります。
※6位以下のデータは「日本ネット経済新聞」が販売する有料データとなっており、購入すると120位までの全調査データをダウンロードできます。興味深いデータですので、アパレルECに興味のある方でしたら是非購入してみることをおススメします。販売サイトはこちらから
※ランキングは2020年9月〜2021年8月の決算データに基づきます。
画像引用:【2021年11月調査】ファッションEC売上高ランキングTOP120(データ販売)(ネット経済研究所)
本ランキングは、ZOZOTOWNなどオンライン専門のモールサイトは含まれず、実店舗を持つアパレル企業のEC売上高ランキングとなっております。今回はベスト5のECサイトについて解説していきます。
※以下、ランキングタイトルは会社名(ECサイト名)で記載します。
1位:ユニクロ(ユニクロ公式オンラインストア)
アパレルECで売上高1位となったユニクロは、国内812店舗、海外主要都市に1,560店舗(2022年5月時点)を展開し、アパレル業界では世界で3本の指に入るトップ企業です。2021年8月決算におけるEC売上高は1,269億円、EC化率は15.1%と右肩上がりに数字を伸ばしています。
◆国内ユニクロ事業のEC売上とEC化率の推移
出典:国内ユニクロのEC売上は約18%増の1269億円、ジーユー事業は推定274億円【2021年8月期】(ネットショップ担当者フォーラム)
ユニクロEC事業が業績を伸ばした大きな要因は、早くから取り組んでいたオムニチャネル施策の成功にあります。全国に展開している実店舗のリソースを生かしてECサイトと連携し、ECサイトで店舗の在庫を確認できたり、また店舗で取り扱いのないサイズや商品をオンライン限定としてECサイトで販売し、それを実店舗で受け取れるなど、店舗とサイトの連携により利便性を高めています。
2022年9月には、新たにECサイト上の全ての商品を最寄りの店舗で無料で受け取れる「お取り寄せサービス」を開始することを発表し、ECと実店舗のさらなる融合を推し進めていく方針です。
2位:ベイクルーズ(BAYCREW’S STORE)
ベイクルーズは「JOURNAL STANDARD」や「EDIFICE」といった人気ブランドを展開しており、アパレル業界でも高いEC利用率を誇ります。2020年8月決算における全体のEC売上高は510億円、うち自社ECの売上が80%近くを占め、業界の注目を浴びました。
ベイクルーズもユニクロ同様に、オムニチャネル施策に力を入れてきましたが、2017年からはユニファイドコマース戦略を打ち出し、オムニチャネル施策によって構築された仕組みをマーケティングに活用していく施策を新たに開始しました。
参考:EC売上510億円、ベイクルーズが推進するDX改革の実例。戦略、組織・仕組み作りを解説(ネットショップ担当者フォーラム)
自社ECサイト「BAYCREW’S STORE(ベイクルーズストア)」では、ユーザー利便性の向上を目的として、2022年よりサイト内の検索エンジンを強化し、新たな機能として特定の商品を指定日時で検索結果に表示させる機能を実装しました。
これにより
「限定商品を指定した日時から販売する」
など、状況に応じて活用することができるようになります。
参考:ベイクルーズがECサイトの検索機能を強化。特定商品を指定した日時まで検索結果に表示させない機能を実装(ネットショップ担当者フォーラム)
3位:アダストリア(.st)
アダストリアは「GLOBAL WORK」「niko and…」をはじめ30以上のブランドを傘下に持ち、公式ECサイト「.st(ドットエスティ)」におけるEC化率は、2018年2月期で16.8%、2021年2月期で30.6%と急成長を遂げています。
ECサイトではWeb接客にも力を入れており、約4,000人の各店舗のスタッフによるスタイリングを紹介することで、リアル店舗のみならずオンライン上でもユーザーとの関係を築き、EC・店舗双方の売上につなげています。こういった施策はユニクロやリーバイスなども取り入れており、多くの店舗を持つ企業ならではの効果的な施策となっています。
◆店舗スタッフによるスタイリング情報の発信(STAFF BOARD)
また、アダストリアの今後のさらなる成長の好材料になりうる展開として、過去に日本から撤退したアメリカのファストファッションブランド「FOREVER21(フォーエバー21)」の再上陸にあたって、アダストリアがパートナーとなって2023年よりEC上で販売が開始されることが決定しました。
FOREVER21は、破産により3年前に日本市場を去りましたが、その後買収先によるリブランディングに成功し、今では世界に570店舗を展開するに至りました。かつて日本でも20店舗以上を展開していた人気グローバルブランドの日本再進出ですので、今後多くのユーザーから注目されるブランドとなるはずです。
4位:オンワードホールディングス(ONWARD CROSSET)
「23区」「自由区」「組曲」など個性的なブランド名で女性をターゲットの軸にブランドを展開するオンワードホールディングスの、2021年2月期における連結EC売上高は約416億円で、EC化率は23.9%と高水準にあり、自社EC売上高は前期比35%増の264億円と好調を保っています。
◆販路別売上高(2021年2月期)
コロナ禍による実店舗売上の落ち込みがあったものの、EC売上の好調により業績は向上傾向にありますが、実店舗売上の復調の起爆剤として打ち出したのが、オンラインとオフラインの融合による新業態の店舗展開です。
2021年4月にオープンした新業態店舗の「ONWARD CROSSET STORE/SELECT(オンワード・クローゼット・ストア/セレクト)」は、ECサイトの『試着問題』に着目し、ECサイト「ONWARD CROSSET」で試着したい商品を選び、店頭で試着ができる「クリック&トライ」というサービスを提供しています。これにより、ECサイトでは試着ができないため購入をためらうユーザーの不安が解消される仕組みが構築されています。
ECサイト上でユーザーの詳細情報を入力することで擬似的に試着ができるバーチャル試着は、ユニクロやZOZOTOWNなどの他ECサイトでも増えてきているサービスですが、EC起点からのリアル試着は他にあまり類を見ず、Amazonの試着サービス「Prime Try Before You Buy」があるくらいです。
この「ONWARD CROSSET STORE/SELECT」は他にも、ECサイト上でもスタイリストのアドバイスを得ることができるサービスや、動画で紹介された商品をすぐに購入あるいは試着予約ができるサービスなど、ECと実店舗を融合しながらユーザーの利便性を追求したオムニチャネルを展開しています。
5位:TSIホールディングス(mix.Tokyo)
TSIホールディングスは、自社ECサイト「mix.Tokyo」で「JILLSTUART」や「PINKY&DIANNE」などレディースブランドを中心に展開しております。他にもレザーウェアブランド「Schott」やミリタリーウェアブランド「AVIREX」などのメンズ向けのブランドを中心に扱ったECサイト「US ONLINE STORE」も運営しており、幅広いジャンルのブランド展開があります。
同社の2021年2月期のEC売上高は406.8億円、EC化率は37%で前期比112%と、こちらも高い水準を保っています。
◆販路別の売上高(2021年2月期)
TSIホールディングスは、2025年2月期に向けて、EC化率を40%に乗せることを想定し、EC事業の大きな構造改革による売上拡大を計画しています。ネットショップ担当者フォーラムの記事よると、改革の内容は大きく以下の4つになります。
② 1,500万人の会員プラットフォームの有効活用
③ エンターテインメントコンテンツの拡充とNFTの導入
④ OMO(Online Merges with Offline)によるオンラインとオフラインの融合
②では、CRMのインフラ構築による顧客戦略の強化を行い、スタッフやユーザー同士のコミュニティを展開し、③においては、2022年9月より「アリババ クラウド」「JP GAMES」とメタバース分野で技術提携し、エンターテインメントコンテンツの展開を開始するなど、これまでのアパレル企業の戦略としては非常に斬新な事業戦略を打ち出しています。
④では、Web接客により店舗スタッフとユーザーの距離を縮め、またSNSを利用してユーザーのエンゲージメントを積極的に取り入れていく施策を実施します。
これらは全てにおいて、ECをベースに展開されていく戦略・サービスのため、今後同社ECが飛躍的な成長を遂げる可能性があります。
ただし、ゲームコンテンツやNFTの開発については、アパレルブランドとしてはハードルも高くさまざまなリスクも含んでいるので、このプロジェクトの成功の鍵になってくると考えられます。
参考:
TSIは「脱アパレルOnly」で「ファッションエンターテインメント創造企業」へ。EC売上760億円をめざす中期経営計画まとめ(ネットショップ担当者フォーラム)TSI ホールディングス、アリババクラウド、JP GAMES、次世代ファッションブランド 体験実現のため、メタバース空間及びサービス構築に向けた共同プロジェクト開始(TSIホールディングス)
まとめ
本日は、日本ネット経済新聞社が提供するデータから、アパレルECの売上高ベスト5の企業について解説しました。
・Web接客ツールの導入
・CRMの強化
などを重点的に強化しております。今後、アパレルECは、このようなポイントに力を入れている企業と、そうではない企業に二極化していくと筆者は予想します。
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