食品には「手に取って鮮度を確認してみたい」あるいは「なるべく新しい食品を手に入れたい」というニーズがあるため、多くのユーザーはECサイトよりも店舗での買い物を好みます。その結果、食品業界のEC化は進まず、2019年のEC化率は2.89%しかありませんでした。
しかし、コロナ禍になり2021年の食品業界のEC化率は3.77%まで伸びました。これはEC業界全体にも大きな影響があります。なぜなら、食品という大きな市場規模の商品が、ECサイトで一般的に購入されるようになると、全体のEC化率が上がるキッカケとなるからです。
本日は、forUSERS株式会社でマーケティングを担当している筆者が、食品ECについて詳しく解説します。
食品業界のEC化率は3.77%
以下は、食品業界のEC化率、およびEC市場規模の推移です。
EC市場規模(億円) | EC化率 | |
---|---|---|
2014年 | 11,915 | 1.89% |
2015年 | 13,162 | 2.03% |
2016年 | 14,503 | 2.25% |
2017年 | 15,579 | 2.41% |
2018年 | 16,919 | 2.64% |
2019年 | 18,233 | 2.89% |
2020年 | 22,086 | 3.31% |
2021年 | 25,199 | 3.77% |
引用:経済産業省「令和3年度電子商取引に関する市場調査報告書」(2022年8月発表)、「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(2021年7月発表)より筆者作成
日本のEC化率は2021年実績で8.78%であり、それに対して、食品ECは3.77%であることを考えると、ECの利用が進んでいないのが現状です。それには以下のような理由があると筆者は考えます。
◆食品ECの利用が進んでいない理由
・鮮度を保つ物流網、配送が必要となりコストがかかる
・日本はスーパーやコンビニが多く、店舗の利便性が高い
これらの理由は食品ECが利用されていない一般的な理由としてあげられますが、さらに筆者は、以下のような家庭の理由もあるのではないかと考えます。
・主婦/主夫層にインターネットで食品を買う習慣がない
アメリカの一般家庭にはパントリーと呼ばれる収納庫があったり、あるいは大きな冷蔵庫がありますので、食品は週に一度程度のまとめ買いをする家庭が非常に多いのです。まとめ買いをする文化や準備があるということは、食品ECとも相性が良いと言えます。
しかし、日本では、その日にスーパーで買った食材をすぐに調理する文化が浸透しているため、アメリカと比較すると、そこまでまとめ買いを行う文化があるとは言えません。生食文化を持つ日本ならではの事情と言えるのではないでしょうか。
また、以下のグラフをご覧ください。
◆日用品・生活必需品のネットショップを行う時間(主婦層)
このグラフは主婦層のインターネットショッピングの利用時間を表したものですが、21時~24時にインターネット利用時間が集中しています。筆者の推測ですが、先ほども触れた「買いおき文化」があまりない日本において、食事を終えたばかりの21時以降に、インターネットで食品を探している方は恐らく少ないのではないでしょうか?
このようなことから、食品を最も購入する必要のある主婦層が、食品ECを利用していないことも、食品ECの利用が進まない一因だと推測します。
それでは、食品ECの利用をさらに進めるため、ここから5つのポイントを解説します。
食品ECを普及させるための5つのポイント
ポイント① ヨドバシエクストリーム便やAmazonプライムなどの当日配送サービスを拡充する
ヨドバシカメラが提供するヨドバシエクストリーム便は、当初は家電商品など店舗で扱っているものが中心でしたが、利用者の「日用品も扱ってほしい」という要望から、店舗にはない商品も扱うようになりました。
食品は鮮度が重要であるため、ヨドバシエクストリーム便のように最短30分で配送してくれるサービスは食品ECには欠かせません。しかしながら、ヨドバシエクストリーム便は、Amazonプライムと同様に都内などの一部の地域でしか対応しておらず、今後はこのような配送サービスの普及が食品ECの普及に重要となります。
ポイント② スーパーと連携する
楽天の子会社の楽天DXソリューションは、米国ファンドとの共同出資により、2021年3月に西友の株式を20%保有するに至りました。もともと楽天と西友の親会社のウォルマートは提携しておりましたが、株式保有により、より連携を強めております。楽天の楽天ユーザーと、西友の実店舗および生鮮食品の物流網により、ネットスーパーの利用の促進が見込まれます。
楽天と西友の連携は非常に良い取り組みです。また米国でもAmazonが高級スーパーの「ホールフーズ・マーケット」を買収するなど、ショッピングモールEC大手がスーパーを買収する動きは世界的なものなのです。
スーパーのビジネスモデルは薄利多売であり、以下の資料によると売上高営業利益率※の全体の平均は1.98%しかありません。一般的には10%が水準と言われております。そのため大手スーパーでは、スーパーの利用者にクレジットカードを作ってもらうなど金融で売上を上げているスーパーもあるのです。
※売上高営業利益率:売上高に対する利益の割合を言い、企業の収益性を測る尺度
◆スーパーの売上高営業利益率
このような背景からも、スーパーもEC大手と連携して食品ECの利用を進め、そこから得られる顧客データなどを生かして、従来のチラシやエリアマーケティングから脱却していくことが求められるのではないでしょうか?
ポイント③ まとめ買いで安さをアピールする
この記事を書いている2022年11月現在、円安による急激な物価高となっており、食品の値上げも家計を圧迫しております。
このような状況下、ネットスーパーもまとめ買いによる値下げ可能な商品は「まとめ買い」訴求を行って、消費を促すべきではないでしょうか?まとめ買いは自宅まで商品を持って帰るのが大変ですが、ネットスーパーであれば自宅まで届けてもらえるメリットもあります。
◆楽天西友ネットスーパーのまとめ買い商品
そのようなネットスーパーならではの利点を訴求すれば、食品ECの普及のキッカケとなるかもしれません。
ポイント④ スマートフォン対応されたECサイト
食品を購入するユーザーは、主婦/主夫層がメインターゲットとなります。そのため、片手でも商品を注文できるように、スマートフォンに最適化したUI(ユーザーインターフェース)を備えるべきでしょう。以下は楽天西友ネットスーパーのスマートフォン画面です。
このように、ターゲットユーザーが手軽に注文できる環境を整えましょう。
ポイント⑤ ネット注文、店舗受取を普及させる
イオンでは、以下のような店舗受取のメリットを訴求しております。
◆「ご利用シーン」より抜粋
空いている時間に、事前にネットで注文(会計)を済ませて、店舗では商品を受け取るだけなので、忙しい主婦やビジネスパーソンには非常に便利なサービスです。また、スーパーに来たことで「ついで買い」も発生するので、売上アップに貢献することにもなり、まさに模範的なOMO戦略と言えます。
食品ECの普及においては、スーパーも大きな役割を果たすはずです。単純にEC化率が伸びたからといって、店舗の利用者が減るわけではないのです。
国内全体でEC化率の引き上げが求められる今、鍵となるのは食品業界
コロナ禍以降、国内全体のECの利用率は大きく伸長したものの、世界と比べると日本のEC化率は依然低いのが現状です。
将来的に日本は少子高齢化を避けられないでしょう。今後は地方から働き手が減少していき、生活必需品などが購入しづらい社会がやってくる可能性が高い中で、求められるのは食品や日用品、医療品などのEC化率が低い分野におけるEC施策の強化です。
特に食品業界のEC化は容易ではなく、先に述べたような従来の文化からの脱却、ユーザーリテラシーの向上に加えて、企業側の人員や物流拠点の拡充も進めていかなければなりません。
しかし、食品という市場規模の大きな業界においてEC利用が進めば、全体のEC化率が一気に伸びる契機になることは間違いありません。