家具やインテリアの分野は、もともとECサイトとの相性が良いためEC化率は高い水準にあります。その理由の一つは、家具のような大型の商品は、配送が前提となるため、もともとの倉庫や配送網がそのままEC事業でも利用可能となるためです。
加えて2020年のコロナ禍による“巣ごもり需要”により、消費者意識が「家の外」から「家の中」に向いたことで、特にEC化率が大きく伸長しました。
こういった背景の中で、業界大手企業はどのような動きを見せているのでしょうか。本日はforUSERS株式会社で、マーケティングを担当している筆者が、家具ECについて詳しく解説します。
家具・インテリア業界のEC化率は28.25%
まず、家具ECのEC化率の推移をご覧ください。
EC市場規模(億) | EC化率 | |
---|---|---|
2014年 | 11,590 | 15.49% |
2015年 | 12,120 | 16.74% |
2016年 | 13,500 | 18.66% |
2017年 | 14,817 | 20.40% |
2018年 | 16,083 | 22.51% |
2019年 | 17,428 | 23.32% |
2020年 | 21,322 | 26.32% |
2021年 | 22,752 | 28.25% |
引用:経済産業省「令和3年度電子商取引に関する市場調査報告書」(2022年8月発表)、「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(2021年7月発表)より筆者作成
家具・インテリア業界においてはEC化率は堅調に伸びております。特にコロナ禍には約3%(23%→26%)も伸びるなど、ECの利用は進んでいる印象です。また、BtoC全体のEC化率は8.78%ということを考えると、28.25%の家具・インテリア業界のEC化率は非常に高いです。その理由は以下の5つだと筆者は考えます。
家具・インテリア業界のEC化率が高い5つの理由
理由② ECサイトの方が価格を比較しやすい
理由③ 自宅にいた方が、部屋のスペースを確認して家具を検討しやすい
理由④ ECサイトの方が品ぞろえが豊富
理由⑤ 店舗が郊外に多いため、都心部ではECが利用されやすい
それでは、一つずつ解説します。
理由① 配送需要が高く、ECサイトと相性が良い
一般的に、店舗がECサイトに勝る点は以下です。
・配送料がかからない
・商品を手に取って確認できる
・スタッフの接客を受けることができる
しかし、家具や大型家電などは、店舗であっても販売在庫は倉庫保管のため「商品をすぐに手に入れることができる」あるいは「配送料がかからない」というメリットがありませんので、この点は、ECサイトの利用が進んでいる理由と言えるでしょう。
また、店舗に訪れた人が、その場では購入せずに後日ECサイトを利用して購入するケースも想定されることから、店舗でもECサイトでも配送が必要になる点は、やはりECの利用が進む大きな要因と言えます。
理由② ECサイトの方が価格を比較しやすい
とにかく、安い家具を探したいという場合は、ECサイトの方が簡単に見つけることができます。例えばモール型サイトの楽天市場には、数多くの商品が出店されているため、単に安いというだけではなく、自分好みのデザインや使い勝手の商品を比較して探すことができます。この点も店舗にはない、ECサイトのメリットです。
理由③自宅にいた方が、部屋のスペースを確認して家具を検討しやすい
店舗で良い大型家具を見つけた場合、気になるのが自分の部屋に設置できるかどうかという点でしょう。筆者の家族も、店舗で購入してきた棚が、自宅の想定したスペースに入らなかった、という経験があります。
こういった失敗がないように、店舗で大型家具を購入する際には、事前に設置スペースを計測しておく必要がありますが、計測を忘れてしまうことも多く、店舗に来たものの購入を諦めるということも少なくありません。これは店舗側にとっては、ある意味で機会損失と言えるでしょう。
しかし、ECサイトの場合、サイズが明記されており、自宅のスペースと家具のサイズをその場で念入りに確認しながら購入することができるので、店舗よりもECサイトの方が便利ですし、購入機会の損失も少ないと言えます。
理由④ ECサイトの方が品ぞろえが豊富
ニトリやIKEAなどの店舗に行けば、商品のサイズやデザインが多数とりそろえてあります。しかし、どんなに大型の店舗であっても、インターネットの品ぞろえの方が圧倒的に多くなります。以下の楽天市場で「棚」を検索した結果をご覧ください。
参考:楽天市場
このように、店舗よりも、より多くのブランドやデザイン、サイズから家具を選ぶことができます。これは家具ECに限った話ではないのですが、家具では特にデザイン性や、使い勝手、サイズ感から探したいという要望があり、その点ECサイトは店舗よりも利便性が高いと言えます。
理由⑤ 店舗が郊外に多いため、都心部ではECが利用されやすい
品ぞろえが豊富な家具やインテリアの店舗は郊外に多くあります。これは店舗面積を考えれば当然と言えます。しかし、車を持たない都心部に住むユーザーから見ると、不便でもあります。もちろん、都内のデパートやショッピングモールの中にも大手家具店がテナントとして入っていますが、郊外店よりも店舗面積が小さいことが多く、品ぞろえに限度があります。
筆者の推測ではありますが、このような背景から都心部に住む方のほうが家具のECサイトの利用率は高いように思えるのです。
家具EC業界大手3社
それでは、家具EC業界の大手3社を解説します。
①ニトリ
ニトリは、日本国内最大のEC売上があり、2021年度の決算書によると通年で710億円を計上しました。以下は、ニトリの2022年第2四半期の通販事業の売上ですが、第2四半期では前期を大きく上回っております。
ニトリの決算説明では、ライブコマースの活用が取り上げられています。ニトリの通販の売上ですがコロナ禍の2020年に大きく伸びたものの、2021年は、対前年108%にとどまりました。数字だけみると2020年に成長しきった印象があります。
つまり、ECサイトで大きく売上を伸ばすにはECサイトの改善だけではなく、新たなマーケットを開拓する必要があり、それをライブコマースに求めたのではないかと思います。懸念点は、ライブコマースで大成功した国内事例について、家具EC業界に限らず、まだ筆者も聞いたことがない点です。また、アメリカにおいてもライブコマースの爆発的な成功事例はなく、中国のように大きなライブコマースの市場を作れるかはいまだ未知数です。
②無印良品
無印良品(良品計画)の決算を見ると、売上や利益が店舗と合算した数字であるため、最新の無印良品のECサイトの売上は分かりませんが、2019年のEC化率が6.8%だったことと、コロナ禍でECの利用が進んだことを勘案すると8~9%程度だと筆者は推測します。
参考記事:良品計画のEC売上は222億3700万円の11.2%増、EC化率は6.8%[2019年度実績](ネットショップ担当者フォーラム)
以下の記事によると、無印良品では、店舗受取サービスを拡充しており、店舗受取対象アイテムを従来の2倍に増やし、大型家具や家電にも対応しました。これはおそらく、ユーザーの利便性を高めるとともに、店舗受取を利用するユーザーを増やして、来店機会の促進につなげるためと推測します。またユーザーにとっても、配送料を無料にすることができるので、双方にメリットがあります。
当記事には、「2022年8月時点の平均売り上げは、2021年8月時点と比較して約4倍に伸長しているという。※」と書かれており、このような店舗とECをまたいだOMO施策により、来店機会を増やし、売上を伸ばしていることが伺えます。
③イケア・ジャパン
以下によると、イケア・ジャパンの売上は939億7200万円、対前年の約108%であり、売上高の伸びはニトリとかなり近いことが分かります。イケア・ジャパンのECサイトを見ると、受取先を自宅とイケア店舗から選択することができるなど、OMOを重視していることが分かります。
◆イケアのECサイトの商品ページ
以下のニュースによると、イケアはJR静岡駅ビルなど国内5か所に商品の受取センターを開設しています。ECサイトに限らず、店舗で買い物した商品も受け取ることができるなど、大手家具事業者は、店舗等の受取サービスを強化しております。
また、対象商品と「デザインの相性」が良いものをおすすめするなど、まるでイケアの店舗で陳列棚を見ているような面白い工夫がなされています。
◆商品ページの下に「デザインの相性がよい」おすすめを提示
ニトリや、無印良品と比べると、そこまでECサイトでの販売に力を入れていない印象でしたが、細かいところまで工夫されていることが分かります。
まとめ
2020年、コロナ禍の影響により“巣ごもり需要”が促進され、大きく伸びた家具EC業界ですが、ニトリやイケアなどの各社の業績を見ると、2021年はそこまでEC市場が伸びなかった印象を受けます。そのためニトリでは、ライブコマースにチャレンジしたり、無印良品やイケアは店舗等での受取を強化するなど、売上を伸ばす工夫を行っています。
もともとECと相性の良い業界なので、こういったさまざまな工夫によりプラスαのサービスを展開していけば、まだまだ伸び代がある業界です。
すでにEC化率の高い家具・インテリア業界においては、ECに限らず、店舗とEC双方で売上を伸ばす仕掛けが大きな役割を果たしていくはずだと、筆者は考えます。