欧州最大のイギリスEC市場の現状と抱えている問題とは?

世界のEC市場において、中国・アメリカに次ぐ大きな市場規模を持つのがイギリスEC市場です。

イギリスは、人口約6,680万人に対してインターネット利用率が97%で、EC化率も高く、世界トップクラスのEC先進国の一つとして、ドイツ・フランスと共にヨーロッパのEC市場をけん引する国です。

出典:Ecommerce in The United Kingdom

イギリスのEC化率が高い理由には、モバイル端末やキャッシュレス決済の普及が早かったことが挙げられます。また、英語圏であることから越境ECの利用も盛んで、これもイギリスのEC市場が拡大した大きな要因の一つです。

また、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、さらに幅広い層にECの利用が普及したことで、今後もEC市場は堅調に推移すると見られております。しかし一方で、同じくコロナ禍の影響により顕在化していなかった、イギリスのEU(欧州連合)離脱の影響も問題視されております。

本日は、forUSERS株式会社でマーケティングを担当している筆者が、イギリスEC市場について詳しく解説します。

イギリスのEC市場は世界第3位!

まずは、経済産業省が発表したレポートより、2021年の全世界における各国のBtoC-EC市場が占める割合をご覧ください。

◆国別EC市場シェア(2021年)

国別のEC市場シェア

出典:令和3年度 電子商取引に関する市場調査報告書(経済産業省)

イギリスの2021年のEC市場規模は、2,346億USドル(約25兆5,714億円)でした。世界では円グラフを見て分かる通り、中国とアメリカの市場の大きさが突出して多いですが、イギリスはその2か国に次いで第3位となっています。

イギリスの人口規模から考えて、世界3位という順位は、いかにイギリスにおいてECが普及しているかを表していると言えます。

ヨーロッパ圏における市場規模

また、以下は近年成長著しいヨーロッパのBtoC-EC市場における上位4か国の売上高です。

1位:イギリス(2,360億ユーロ)
2位:フランス(1,120億ユーロ)
3位:ドイツ(936億ユーロ)
4位:スペイン(684億ユーロ)

ヨーロッパ全体のEC市場の売上高7,570億ユーロのうち、イギリスが約3割を占めており、2位のフランスに倍の差を付ける売上高となっております。

さらに記事(※)によると、オンラインで買い物をした人の割合は

1位:イギリス(92%)
2位:オランダ(91%)
3位:デンマーク、スイス(90%)
5位:ドイツ、ノルウェー(87%)
7位:スウェーデン(86%)

となっており、全体的に高水準のヨーロッパ圏内でも、92%と非常に高い割合でECが利用されていることが分かります。

このようにイギリスはEC市場の成長が堅調なヨーロッパにおいても、その中心を担っている存在となっております。

※出典:欧州でもEコマースが続伸、オンラインの買い物での欧州の中心国とは!?(デジタルシェルフ総研)

イギリスのEC化率

以下は、2021年の主要国のEC市場規模とEC化率をまとめた表になります。ここでは上位5か国について記載しますが、記事(※)では10か国の数値をご覧いただけます。

国・地域名 EC小売市場規模
(10億ドル)
世界シェア(%) EC化率(%)
世界 4,938.2 100.0 19.0
中国 2,488.6 50.4 43.9
アメリカ 919.1 18.6 14.2
イギリス 234.6 4.8 36.3
日本 164.3 3.3 11.8
韓国 126.5 2.6 29.0

注1:EC小売額は決済手段やフルフィルメントの手法にかかわらず、インターネットを利用して注文された商品・サービスを含む。旅行やイベントチケットの販売、料金支払いや税金、送金、飲食店サービス、ギャンブルなどは除外。
注2:2021年の市場規模上位10か国を掲載。

※出典:海外市場の成長がECの積極的活用を後押し(世界、日本)(日本貿易振興機構)より筆者作成

この表の通り、2021年のイギリスのEC化率は36.3%で、アメリカに大きく差を付け、中国に次ぐ世界2位のEC化率となっております。日本と比べても3倍以上のEC化率となっており、世界トップクラスであることが分かります。

以下記事(※)の調査によると、イギリスの消費者の51%が「実店舗での購入よりも、オンラインでの買い物を好む」という結果が報告されており、特に25歳〜34歳のユーザー層による利用が最も多く、月に平均8回買い物をしているとのことです。

これは2018年発表の調査結果なので、コロナ禍前においてもイギリスでは消費者のEC利用が半数を超えており、早くからオンライン化が進んでいたということが分かります。

※出典:51% UK consumers prefer to shop online rather than in-store

コロナ禍における変化

新型コロナウイルスの流行は、世界的なEC利用率の増加という大きな変化をもたらしました。中でも今までにない大きな変化は、食品ECの利用増加と高齢者のEC利用の増加でしょう。

食品ECが急成長

実はイギリスは、新型コロナウイルスの流行以前においても食品ECが伸びており、年平均10%以上の勢いで成長しておりましたが、2020年のコロナ禍において食品ECの利用が急増しました。

大手食品EC企業のOcado(オカド)では、通常時の10倍の需要が発生し、13万3,000人が新規顧客となりました。また、食品卸業者の消費者向けのEC販売展開など、オンライン市場への新規参入も目立ちました。

これは一時的な動きではなく、コロナ禍を通じて多くの消費者がECの利便性に気付いたことで、今後も伸長していくであろうと見られております。

参考:英国の食品業界における新型コロナウイルスをめぐる現状と「コロナ後」の見通し(日本貿易振興機構)

高齢者のEC利用が増加

また、高齢者のEC利用にも変化が見られました。リサーチ会社のMIntel社の調査によると、コロナ禍以降のイギリスにおいて、65歳以上のインターネットユーザーの37%(コロナ禍前は28%)が、ECでの購入量を増やしたとされています。

先に述べたように、EC利用のコアとなる年齢層は25歳〜34歳であり、高齢化が進むイギリスにおける高齢者のデジタルシフトの意味合いは大きく、今後のイギリスEC業界に大きな変化をもたらすことは間違いないでしょう。

参考:コロナウィルスによるイギリス食料品EC市場の動き(ECのミカタ)

イギリスのEC市場の課題は「物流」

イギリスのEC市場における課題の一つは物流にあると言われております。以下の論文によると、イギリスにおけるECサイトの配送の多くは、郵便サービスのRoyalMail(ロイヤルメール)が担っておりますが、配送の遅延の常態化などから消費者の評価は高くありません

そのため近年ではAmazonなどの事業者は、独自の配送ネットワークの構築に乗り出し、店舗からの直接配送、クリック&コレクトやオムニチャネル施策による店舗外受け取りなど、企業がそれぞれの取り組みにおいて物流の問題をカバーする動きを見せております。

参考:イギリスにおけるネット通販とその配送の特徴(林克彦:流通経済大学 流通情報学部 教授)

イギリスで人気のECサイト5選

イギリスは英語を母国語とするため、人気のECサイトも世界的に有名なサイトが多いという特徴が見られます。イギリスで人気の大手ECサイトは以下の5サイトです。

① Amazon UK

イギリス版のAmazonは、もともとはイギリス最大手のオンライン書店をAmazonが買収し、Amazon UKとしたもので、Amazonの欧州進出の契機となりました。

UK人気EC_amazon

参考:Amazon UK

② eBay UK

現在では世界最大規模のマーケットプレイスであるeBayは、Amazonにはない希少な商品や、ビンテージアイテムを取り扱っているのが特徴です。

UK人気EC_ebay

参考:eBay UK

③ Tesco

イギリス国内最大手のスーパー、コンビニエンスストア「Tesco」は、海外13か国にも展開しており、金融、金融、電気通信、ガソリンスタンドなど幅広く事業展開しております。5大世界流通大手企業の一つです。

UK人気EC_tesco

④ Argos

イギリスに750以上の店舗を持ち、家具・日用品・電化製品・レジャー用品・スポーツ用品など、あらゆるジャンルの商品を扱っております。40年以上にわたってイギリス国民に愛されている老舗です。

UK人気EC_argos

参考:Argos

⑤ asos

ファッション、ビューティー関連の商品を扱うセレクト系ECサイトです。850以上のブランドを扱っており、自社ブランドも展開しております。日本で例えると、ZOZOTOWNが近い存在です。

UK人気EC_asos

参考:asos

イギリスでは越境ECが人気だが課題もあり!

イギリスのEC化率が高い理由の一つとして、母国語が英語のため越境ECを利用しやすいという要因があります。

事実、イギリスにおいて越境ECは多くの人に利用されてきており、以下の記事(※)では、ECユーザーの16%はEU連合以外から、11%のユーザーはEU諸国から商品を購入しており、約3割のユーザーが越境ECを利用していると述べられております。

※参考:イギリス人はベッドでMコマース

また、以下は、tenso株式会社が運営する越境ECサービス「Buyee(バイイー)」を利用している約800名の海外顧客に対して行ったアンケート結果のプレスリリースですが、それによるとコロナ禍以降のイギリスにおいては76%以上のユーザーが「越境ECの利用が増加した」と答えており、コロナ以前より越境ECが浸透していることが分かります。

参考:93%以上が「アフターコロナ以降も越境ECを利用したい」~越境ECを利用する海外のお客様800名にアンケート~(BEENOS株式会社/PRTIMES)

しかし、イギリスの越境EC市場には懸念事項があります。それはイギリスのEU離脱による影響です。EU(欧州連合)から離脱したことで、イギリスからEU圏への発送に関税がかかるようになります。

EU離脱後もEUからイギリスへ輸入の際には関税はかからないものの、通関手続きが必要で、原産地の証明に関連する書類の提出なども求められることから、企業の負担になっています。

イギリスのEU離脱は2020年12月31日をもって完了しましたが、ちょうど新型コロナウイルスの感染拡大により、その影響は顕在化しておりませんでした。しかし、昨年あたりから物流、エネルギーなどの分野でも影響が出てきており労働力不足問題も深刻になってきているようです。

参考:英 EU離脱から2年 否定的に捉える人が過半数 不満の声強まる(NHK)英経済に人手不足の重荷 物流混乱、物価も上昇(日本経済新聞)

このように越境ECの市場としては、現在のイギリスは不安定な状態にあり、このことが今後のイギリス全体のEC市場にどのような影響が出てくるのか注視していく必要があります。

世界屈指のEC先進国だが今後の注視も必要

イギリスは、もともとインターネットの利用率が非常に高く、早くからモバイル端末やキャッシュレス決済の普及が進んでいるため、EC化率も世界平均の2倍近くを誇るEC大国です。

その大半は若者を中心としたユーザー層からなるものでしたが、コロナ禍を経て高齢者にもEC利用が浸透し、さらに今までECの利用が進まなかった分野にも顕著な成長が見られたことで、今後さらに大きく伸長していくことが予想されます。

ただし、イギリスを越境ECの市場と見るときは、EU離脱による将来的な影響を念頭に置く必要があります。EC市場全体が上昇傾向にあるとはいえ、物流の混乱や中小企業の負担から国民の不満の高まる中、市場の注視が重要となってきております。

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